福島県相馬市を訪れて

この度の東北地方太平洋沖地震にまつわる東北・関東における様々な災害にて被害にあわれた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。そして、各地の一日も早い復興を心から祈念申し上げます。

東北自動車道が通行可能になったとの報道を受け、先日住職と共に私の出身地である福島県相馬市に行って参りました。相馬へのルートとしては常磐道を利用するのが通常ですが、道路が寸断されていることと原発地域にあたることにより利用することができませんでした。かなり迂回することにはなりますが、現地まで行けることが確認できました。

震災間もないこの時期に個人として当地を訪れることは、余震やガソリン不足の続く折に却ってご迷惑になるかもしれないという思いは常にありましたが、僧侶として、現地に赴き自分の目で状況を確認することは大切なことだと思い、家族と相談を重ね情報収集や準備を協力してもらい住職の決断をいただいて行って参りました。

相馬市は、太平洋に面し福島県と宮城県の県境に位置し、今回の震災では震源地に近い場所でした。市内東部の相馬港は福島県内でも有数の漁港ですが、残念ながら今回津波の影響を受けて大きな被害が出ました。報道によりますと、7メートルを超える津波に見舞われたようです。

私達が訪ねた原釜・尾浜地区は相馬港に隣接した地域ですが、津波の被害を直接受ける形になりました。多くの建物が被害に遭い、住民のほとんどの方が今避難所や親類宅での生活を強いられています。現在は自衛隊や警察の方々が中心になり、数日前からようやく道路が通れるようになりました。それに合わせ、行方不明者の捜索が続いています。まだ多くの方の行方が分からない状況です。海からかなり離れている道のわきにも大きな漁船が何隻も乗り上げており、津波の被害の大きさを目の当たりにしました。子供の頃友達と遊んだ港の広場や路地も様子が一変していて、思わず胸にこみ上げてくるものがありました。港の先端まで行き、住職と共に亡くなられた方のご冥福と早期の復興を祈念してお経をあげさせていただきました。

最近の報道にもある通り、相馬市の避難所への物資は、原子力発電所の事故による道路・鉄道の遮断によって支援の谷間になっており、十分な量が確保できない状況です(相馬市は事故のあった原子力発電所から約45キロ離れており、避難勧告されている地域ではありません。そして、勧告地域から流入して来た避難者も受け入れている現状にあります)。食料やガソリンは圧倒的に不足しています。また4月間近とはいえ寒い日が続いており、燃料不足のため暖房が思うように使えず避難所生活をされている方々の体力を奪っています。

しかし現地の人々は、みんなで助け合い、みんなでこの状況を乗り切っていこうという想いでいっぱいであることを実感しました。大変な状況の中避難されている方々から多くのことを教えていただきました。その思いに触れて、改めて何かできることはないかという思いを強く持ちました。自分を育ててくれた故郷に何か少しでも恩返しをしなければと思います。自分にできることを少しづつかたちにしていきたいと思います。

大乗仏教に通ずる精神として、「利他(りた―他を利する)」という考えがあります。私たちはつい、将来の自分のために今何かをしている(自利―じり・自ら利する)、いずれ自分に返ってくる、という気持ちになって行動してしまいますが、それよりももっと大きな視点に立って、他人のためにどのようなことができるのか、どうしたら他の人のお役に立てるのか、それがひいては世の中を良くしていく、ということのほうが大切なのです。この度のような自然災害を目の当たりにすると、普段以上にその「利他」の持つ意味を考えさせられます。そして、たとえ現地へ赴かずとも、いつもの生活に近い状態に身を置いているとしても、できることはたくさんあることに気付かされます。そして、非常時に限らず、平静の時にもこのような心がけを忘れずに過ごしたいとあらためて思うようになります。自分もこのことを心に留めてこの先も過ごしていきたいです。

今回準備の段階から相馬に向かう先々でも、たくさんの方に助けていただきました。本当にお世話になりました。皆さん震災の影響を受けて大変な状況であるにもかかわらず、心配と励ましの言葉をかけて下さいました。とても勇気をいただきました。有難うございました。今回受けた様々なご恩を、僧侶としての活動を通して世の中にかえしていきたいと考えています。
また、忙しいスケジュールの中時間を割いて往復950キロという距離を単独運転にて連れて行ってくださった住職をはじめ、相馬に行くことを迷っていた自分の背中を押してくれた家族に感謝します。(英岳)

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